物語を狩る種族(The Story Hunters)

読んだ本の感想を書いているブログです

2015年に読んだ本

 年も明けたので去年のおさらいを。面白かったものもそれほどでもなかったものも。去年はSF小説ばっかり読んでました。

 今年は瀬名秀明デカルトの密室』とか、サミュエル・R・ディレイニー『バベル-17』とか、ロジャー・ゼラズニイ『伝道の書に捧げる薔薇』とか、チャールズ・ディケンズ二都物語とか、ジーン・ウルフ新しい太陽の書」シリーズとか、古野まほろ『天帝のはしたなき果実』とか、青崎有吾『図書館の殺人』とか、乙一ほか『メアリー・スーを殺して』とか、A.ブラックウッド『ブラックウッド傑作選』とか、クライヴ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』とか、ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーンとかを読みたいと思います。

 

まずは2015年のベスト5冊

殊能将之殊能将之 読書日記 2000-2009』

長谷敏司『あなたのための物語』

山本弘『アイの物語』

ヘルマン・ヘッセ『ヘッセの読書術』

サミュエル・R・ディレイニー『ドリフトグラス』

 どれも素晴らしい作品なので、まだ読んでいない人は一生に一度でよいので読んでいただけたら著者も出版社もついでに私も喜ぶと思います。

 

いろいろ

 ジェフ・ニコルスン『装飾庭園殺人事件』は「本格ミステリかな?」と思って読んだら罠に掛けられた一冊でした。あとは何も言うまい。

 

 積読だった日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー」もとうとう読了。長年にわたり日本SFを読んできた方には既に読んだことのある作品ばかりかもしれませんが、最近SFを読み出した私のような読者にはたまらないアンソロジーでした。中でも、石原藤夫「ハイウェイ惑星」、荒巻義雄「大いなる正午」、小松左京「ゴルディアスの結び目」、大原まり子アルザスの天使猫」、中井紀夫「見果てぬ風」、森岡浩之「夢の樹が接げたなら」、小林泰三「海を見る人」、北野勇作「かめさん」、飛浩隆「自生の夢」、瀬名秀明きみに読む物語」が特に「読めて良かった!」と感じた10作。

 

 もっと! もっと! 昔の名短篇を読めるアンソロジーを! という私の希望を叶えてくれたのが筒井康隆編の「70年代日本SFベスト集成」ちくま文庫から順調に刊行されて嬉しい限りでした。

 

 『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉』『逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成〈F〉』も、ずっと積んであったのを読み終わりました。小川一水「幸せになる箱庭」はストレートなSFで哲学的な話題を扱っており非常に好みな作品。どうでもいいことですが、Amazon電子書籍セールで小川一水の短篇集を3冊買いました。やったぜ。飛浩隆「ラギッド・ガール」も大変面白かったので「廃園の天使」シリーズの文庫2冊買いました。『空の園丁』が待ち遠しい……。ついでに言うと平山先生の『ボリビアの猿』も待ってます。乙一「陽だまりの詩」は再読、今でも大好きな作品。石黒達昌冬至草」は地味ながら力強い物語で好み。山本弘「闇が落ちる前に、もう一度」もSFならではのハッタリを利かせつつ、哲学的で馴染みやすく面白かったです。

 

 中村航中田永一『僕は小説が書けない』は小説を書く側の視点が興味深く読めましたし、えらく読みやすいのが良かったです。ただ個人的にはもっと驚きが欲しいところ。

 

 実話怪談系では、黒木あるじ『無残百物語 ておくれ』松村進吉『「超」怖い話 乙』が面白かったです。ちょっと不気味だね程度の話からマジで嫌なレベルの話まで、コントラストがあり。著者による話の伝え方のうまさもあるのかもしれません。

 

 中田永一『私は存在が空気』は恋愛成分薄めでSF(すこし・ふしぎ)な恋愛小説集。少年少女が主役なので読みやすいものの物足りず。「少年ジャンパー」が一番好き。

 

 文春文庫の『厭な物語』はすごく面白いコンセプトのアンソロジーで、どの短篇も印象に残るものでした。フラナリー・オコナー「善人はそういない」は『ニュー・ミステリ』というアンソロジーでも読んだことがあるので再読ですが、やはり素晴らしい作品。ジョー・R・ランズデールの「ナイト・オブ・ホラー・ショウ」は読んでいて平山夢明の作品に通ずる悪趣味さと理性があるように感じました。

 

 米澤穂信『満願』は総じて完成度の高い短篇集。手堅いぶんミステリ的な衝撃度は弱いとも感じましたが、いずれの短編も人間の悪意や業を描くという点で共通しており、それが物語としての強みを持っています。

 

 ケン・リュウ『紙の動物園』も安定して面白かった短篇集。選ぶのが難しいですが、「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「良い狩りを」が個人的ベストの3作です。ツイッターをやってないので販促キャンペーンには参加できず残念。

 

 ウィリアム・トレヴァー『恋と夏』は主人公の初恋のみずみずしさがほのかに明るいものの、それよりも周囲の登場人物たちの哀切が強く印象に残りました。あと雰囲気のある文章が良いものなのです。

 

 アン・レッキー『叛逆航路』は目を見張るような真新しさがあるようには思えないものの、ややこしい作品世界に、ひと癖ある登場人物たちが楽しい一冊。個人的には復讐物語であるというところもポイント高かったです。

 

最後におまけ、2015年に読んだ個人的・短篇ベスト10(順不同)

 スタニスワフ・レム「航星日記・第二十一回の旅」(『短篇ベスト10』所収) そんなにエンターテイメントしているわけではありませんが、SFの過剰さとハッタリ、知性で殴るみたいなところが良かったです。

 サミュエル・R・ディレイニー「エンパイア・スター」(『ドリフトグラス』所収) たぶん著者の力の抜け具合が良い方向に働いた傑作。とにかく楽しめました。次は『バベル-17』を読もう。

 ジャック・ヴァンス「天界の眼」(『不死鳥の剣』所収) くすりと笑えるファンタジーです。個人的事情により落ち込んでいた気分が少し前向きに。国書刊行会でヴァンスの新刊を出してくれると嬉しいのですが……。

 ジーン・ウルフフォーレセン」(『ジーン・ウルフの記念日の本』所収) 不条理で不気味な感じが大変よろしい作品です。短篇集自体も、まだ読み切っていませんが面白い。

 ケン・リュウ「良い狩りを」(『紙の動物園』所収) ボーイ・ミーツ・ガールでそこに着地しますか、というツイストが心地いい作品。どんでん返し、というよりもピタリとはまる結末が素晴らしい。

 山本弘「詩音が来た日」(『アイの物語』所収) 短篇集全体の趣向を引き締めるという点で表題作も素晴らしいけれど、短篇単体で見たらこの作品がずば抜けて好み。人間とは何かという問いに部分的ながら面白い角度で答えているのも良いし、何より誰でも歳をとりいつかは死んでいくことに対して、救いを与えようとする話でもあるので、暖かさというか、科学が人に与えられるもののポジティブな視点も良いのです。

 飛浩隆「ラギッド・ガール」(『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉』所収) アンソロジーから。SF的な理屈付け、感傷性、印象に残るキャラクター。

 瀬名秀明きみに読む物語」(『日本SF短篇50 V:日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー』所収) こちらもアンソロジーから。人の「理解」を取り扱う繊細さと誠実さが心にくる。

 福澤徹三「まちがった」(『忌談 終』所収) 知らない怖さ・不気味さがグッド。

 ウィリアム・トレヴァー「雨上がり」(『聖母の贈り物』所収) 家族との思い出を振り返り託すような情景描写が素晴らしい。思い出の地、もともとバカンスに来る予定で無かった土地、よく知らなかった場所、いろんな要素が積み重なり、描写され、ただの風景がすごく感情豊かだと思いました。失恋直後なのでちょっと湿っぽいけど、最後はすがすがしい、まさに「雨上がり」な作品でした。

アンディ・ウィアー『火星の人』

 アンディ・ウィアー著『火星の人』(小野田和子*1訳)を読みました。本国で出版されて話題になっていたとき*2から、お、これはすごく読んでみたいぞ、と思っていたのがようやくです。

 あらすじ。NASAの宇宙飛行士マーク・ワトニーが不慮の事故により一人ぼっちで火星に取り残されるも、植物学と機械工学の知識を生かして生き延びていく話です。本当にそれだけ。火星サバイバル・ガイドです(宇宙飛行士むけ)。

 もうこのお話のシンプルさにやられました。単調ともいえますが、これが不思議なくらい面白いんですよ。というか読んでいて気持ちいい。火星の環境はあんまり人にやさしくないので、もちろん生きていくには様々な困難がともなうわけです。その様々な困難を右から左へどんどん解決(植物学者ってスゲー!)、まあ、さっさと問題点を潰していかないと死んじゃいますからね、問題を見つけてはそれに対する解決策をポンポン出していく、スピーディーな話の運びかたが素晴らしい。その困難というのも極めて現実的なもので、ただ単に主人公を苦しめるためだけに用意された急展開では〈ない〉のだった――本当だ! 小説の作者よりも頭の良い作中人物は書けない*3、と思っているので、問題を発見して(ちゃんと見つけるのもすごいですよね?)それに対して有効な対策を考えつく、そんな登場人物たちを書いた作者には脱帽しました。

 主人公を苦しめる、というのは物語の定跡で、そういう場面では苦しめられている主人公を見ているこっちも暗い気分になってきたりします*4。先にも述べましたが、本書も主人公に困難が振りかかり、振りかかり、振りかかり……、という話なので読者も苦しくなりそうですがご安心を。小説の大部分が主人公によるログ、という体裁になっており、そこで主人公(あるいは作者)のユーモア精神が遺憾なく発揮されています。読者はハラハラドキドキ不安になりながらも、「こいつ全然あきらめてないぞ!」と勇気をもらって(笑いながら)読み進められるわけです。

 というわけで、非常に説得力のある展開でお話を盛り上げてくれて、読んでいるほうも「ここまでやっておいて主人公が助からないなんてことないよね? ないよね?」と思いつつ、マーク・ワトニーその他のユーモアに助けられながら、最後まで楽しめる素晴らしい作品でした。

 

*1:同じ訳者の作品では『シリンダー世界111』を読んだことがあります。変な話で(まあ大抵のSFは変な話です)、ひねくれにひねくれている登場人物が良かったということぐらいしか覚えていませんが

*2:どこかの洋書のレビューサイトなりブログなりで見たはずなのですが、それがどこなのかさっぱり思い出せません。ここでリンクを貼っておきたかったのだけれど

*3:もちろん天才という定義に当てはまる人物を書くことはできますけど、その人物の頭のよさを書けるかは……どうでしょう?

*4:程よく装飾された文章が回想を彩る『静かなる天使の叫び』というお気に入りの小説があるのですが、これも主人公が作者にいじめられてて、読んでいて悲痛な気分になったりしました

SFマガジン2014年12月号(R・A・ラファティ生誕100年記念特集)

 ラファティ特集が読みどころのSFマガジン2014年12月号を読みました。

 ラファティ読んだことないんですけど、私の頭の中の「読んだことない作家ワールド」で妙な存在感があったので今回の特集に飛びつきました。Amazonで即予約です。SFマガジンの700号記念のとかディック特集のとか、気が向いたら買おうと思っていたら、時すでに遅し、売り切れていたので……。

 というわけで(?)まずは牧眞司*1「特集解説」から。”そう、ぼくらは秘密結社だ”という宣言から始まり、ラファティという作家、特集の小説・エッセイ・評論などを手際よく紹介してくれます。「秘密結社だ」という宣言からはまったく秘密にしている感がありませんが、ラファティの人気さ(おそらくSFマガジンを手にとる人以外にはよく知られていない)が伝わってきます。新入りにもやさしい特集を組んでくれた牧さんとSFマガジンに感謝。

 次は「その曲しか吹けない――あるいは、えーと欠けてる要素っていったい全体何だったわけ?」(山形浩生*2訳)を読みました。「聖ポリアンダー祭前夜」はまあ、なんとなく後回しに。冒頭から、”トム・ハーフシャルはラッパ演奏が主専攻で、郷愁民間伝承が副専攻”、それに怪獣変身やハード地理学などの科目。このお話の世界は君たちの知っている世界とは外れているよ、ということを教えてくれて、読んでいるほうもわくわくしてきます。そして文体も「ある種」の物語の雰囲気を漂わせていて素敵です。「語り」は奇妙にひねくれている感じがしますが、お話のキモの部分については最後に直接的な単語が出ますしわかりやすいと思います。ある物語について何を以てわかったと言えるのかはわかりませんが。

 それから浅倉久志*3ラファティ・ラブ」(古沢嘉通*4訳)。翻訳で浅倉さんの文章が読めるとは! 浅倉さんのラファティ作品との出会いから、その魅力が伝わります。

 続く「R・A・ラファティ インタビュウ」(橋本輝幸*5訳)は作品がどのようにつくられているのか、わかるようなわからないようなものとなっています。山形浩生アーキペラゴ航海記」を読むと、このインタビューの中で触れられている『Archipelago』がどんな話かさらにわかります。山形さんでも”まともに理解できない"というほどの作品なので、翻訳(柳下毅一郎*6さんに頼みたいところですね)が売れるかわかりませんが、一度は読んでみたい。

  マイクル・スワンウィック「絶望とダック・レディ」(牧眞司訳)では、ラファティの作品が出版されているころ、それがどのように評価されていたかが分かります。編集者の間でも一定の評価は与えられていたようですが、読者が少ないと目されていたと。そんな中で小さな出版社が動くというのはすごいですね。あと、"ラファティについて書くとき、つい彼のようにやってみたくなる"と書いているマイクル・スワンウィック。"戦うまえに決着がついている"とわかっていながら、"なんのことやらさっぱりわからない"で締めるとは。

 井上央「ラファティ書簡1979-1993」については、こうした個人的な交流の一端を公開してくれた井上さんに感謝ですね。チェスタトンを高く評価しているとか、作品についての作者自身の考えを知ることができるのは楽しい。

 大野万紀*7岡本俊弥*8/中藤龍一郎/林哲矢「ラファティ邦訳長篇レビュウ」に始まる、一連の作品紹介(井上央「知られざるラファティの長篇世界 未訳長篇総まくり」、坂永雄一*9「行間からはみだすものを読む 邦訳全短篇紹介」、松崎健司*10ラファティ未訳オススメ短篇20選」)は初心者だけでなく熱心な読者も視野に入れた素晴らしいものです。邦訳全短篇紹介では、100はある作品をガジェットから分類していて、ラファティの短篇作品のよきガイドとなりそうです。未訳オススメ短篇を紹介した松崎さんの「新世紀ラファティ結社」は、海外のSF事情(いや、ラファティ事情?)が窺えて面白い。

 柳下毅一郎「ホントは怖いラファティ」、牧眞司ラファティの終末観」、山本雅浩「ラファティのモノカタリ」ではラファティ読みのツワモノたちが、その作品のユーモア、宗教的要素や難解さに潜むものについて語ってくれます。ラファティ作品の森に分け入るのは楽しそうですが、底が知れなくて少し尻ごみしてしまいそうです。

 若島正*11「乱視読者の小説千一夜 出張版」では、山形さんの「アーキペラゴ航海記」にもありましたが、昔の海外SF読者の苦労について触れられていて、今は何と恵まれていることか! と思いました。大体の洋書(英語)はAmazonで入手できますし、最新SFもLightspeed MagazineやTor.comやSubterranean Pressなんかで公開されていますからね。おお、インターネットの力よ。

 「カブリート」(松崎健司訳)はある店で出されるカブリート(子ヤギの串焼き)についての話。お話は酒場から始まるのですが、その酒場の壁が鏡張りになっていて、店を出るノルウェー人に二体の鏡像がくっ付いてくという奇妙な出だし。この鏡像、おわかりになるかどうかわかりませんが、生霊なんですよ。まあ生霊であろうと鏡像であろうと、主人公によく似た存在なのは変わりありません。で、仲間のアイルランド人(と生霊二体)と入った店で、カブリートを食いながら、カブリートの話を聞くわけです。食べている時にその食べ物の話を聞かされるというシチュエーションは、悪い予感しかしませんね。結末は、実際に読んでみてください。語りも美味しい短篇ですよ。

 ラファティによるエッセイ「SFのかたち」(大森望*12訳)はラファティ流のSF小説論のようです。ようです、というのはもしかしたら「SFとはなんぞや?」以上のことについてラファティは語っているのかもしれないからです。ええ。

 特集のうち最後まで読むのをとっておいた「聖ポリアンダー前夜祭」(柳下毅一郎訳)はシリーズものということですが、これは、シリーズ作品を読んでいたら何かわかりやすくなるんでしょうか? 芸術秘書の仕事って? 陶器の小人とは一体何でしょうか? 演じられていた劇の意味は? 一つわかるのは観客・演者を巻き込むドンチャン騒ぎが起きて、収まって(あるいは収まらないで)、アウストロは関係なかったということです。

 さて、もうラファティ特集だけでお腹いっぱい! という感じですが、それ以外についても少々書きましょう。『楽園追放』がもうすぐ公開ということで、虚淵さんの特別メッセージが載っています。映画をきっかけにサイバーパンクを、ということで「サイバーパンクSF傑作選」も出ています。欲しいけれど、予算が……。11月には『化石少女』、12月には『70年代日本SFベスト集成2』があるもので。あとは、SFブックスコープの『恋愛小説集 日本作家編』や『世にも不思議な物語』、『八面体』が気になるところ。お金に余裕ないので心のメモ帳にしまうしかないんですけどね。田辺青蛙「北米に羽ばたく日本SF」では、海外のSFコン楽しそう、というのと菊池秀行が売れているというを初めて知りました。村上春樹の次に売れているとな。

 普段SFマガジンを読んでいないので、残りはゆっくり読もうかと思います。

 

*1:牧眞司(shinji maki) (@ShindyMonkey) | Twitter

最近話題の『サンリオSF文庫総解説』編者の一人でもあります。WEB本の雑誌の「今週はこれを読め! SF編」牧眞司|WEB本の雑誌も面白いですよ

*2:Hiroo Yamagata (@hiyori13) | Twitter

訳書に面白いものが多いです(私が読んだ範囲では)。あと日本語版ページ(YAMAGATA Hiroo: The Official J-Page)やはてなダイアリー山形浩生 の「経済のトリセツ」)にも面白い記事が沢山あります

*3:SFに貢献した偉大な翻訳者。読者として、知っているところ知らないところでかなりお世話になっていそうです

*4:マイクル・コナリークリストファー・プリーストの翻訳者である古沢さんのツイッターY. Furusawa 古沢嘉通 (@frswy) | Twitterはサッカー・落語の合間にあるSFの話題が興味深いので時々チェックしています

*5:訳者ツイッターTeruyuki Hashimoto (@biotit) | Twitterは海外SF情報が得られるのでありがたいです

*6:ジーン・ウルフケルベロス第五の首』の翻訳者Kiichiro Yanashita (@kiichiro) | Twitter

*7:大野万紀 (@makioono) | Twitter

THATTA ONLINE執筆者の一人

*8:岡本 俊弥 (@toshiya_ok) | Twitter

THATTA ONLINE執筆者の一人。ホームページの岡本家記録Book Review Online Start Pageには沢山のSFレビューがあります

*9:坂永雄一 (@SeleniumGhosts) | Twitter

計画中というラファティ同人誌に期待。ネット通販してくれると良いのですけれど

*10:らっぱ亭 (@RappaTei) | Twitter

ホームページ「とりあえず、ラファティ」(http://hc2.seikyou.ne.jp/home/DrBr/)も充実してます

*11:Problem Paradise (@propara) | Twitter

著書の『乱視読者のSF講義』が素晴らしいのでみなさん読むと幸せになれるかもしれません

*12:大森望 (@nzm) | Twitter

SFアンソロジストコニー・ウィリス翻訳者というのが最近のイメージ。AXNミステリーBOOK倶楽部は楽しかったな……。闘うベストテンとか。訳書はコニー・ウィリス『航路』とジョン・クロウリー『エンジン・サマー』がオススメです

キジ・ジョンスン「26モンキーズ、そして時の裂け目」

 今日読んだのは創元海外SF叢書の三冊目、キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』から「26モンキーズ、そして時の裂け目」*1(三角和代訳)です。この著者の作品を読むのは初めてですが、前評判をネットで見かけて面白そうだと思い手に取りました。この短編は世界幻想文学大賞受賞作と裏表紙に書いてあり、読む前から「きっと面白いだろうな!」と思っていましたが、その期待に応えてくれるお話でした。

              

[あらすじ]

 エイミーは猿の一団を率いて出し物をしている。中でも大技は猿の消失である。バスタブを舞台に押し、客に調べさせる。それを天井の鎖で吊り上げ、脚立を置いて合図すると次々に猿たちが脚立を上って中へ飛び込む。最後に入る猿のゼブは咆哮をあげ、フラッシュとともにバスタブが傾く。すると、中はからっぽ。

 エイミーがこの一団を手に入れたのは三年前のユタ州特産市での出し物から。見かけた猿たちを、どうしても買わなければいけないという思いに駆られたからだった。猿との生活は奇妙だが、エイミーは気に入っていた。ジェフという恋人もいる。しかし、エイミーは同時にこうも思っていた。たしかなものはなにもない。人はすべてを失うかもしれないと……。

 

[感想]

 とても短くすっきりとまとまっている幻想的な作品でした。まだ読んでない人の興をそぐことにもなりかねないので、あらすじはちょっとだけ。猿(とても奇妙で時には人間的にも思える)と人との交流(あるいは共生)を描いたお話ともいえます。

 読後感は何だか暖かい感じでした。エイミーは夫に浮気されて捨てられ、打ちひしがれて、空港の離発着機の空路下(いかにも騒音がひどそうです)にある月極めの家具つきアパートメントで暮らしていましたが、なぜだかたまたま出かけた特産市で猿たちを買います。この猿たちが愛らしいのです。かたまってボールの色を合わせるゲームに興じたり、積み木でアーチを作ろうとしたり、YouTubeで子猫の動画を見ていたり。

 とはいえ、このお話はアニマルセラピー効果でエイミーが救われるという話ではありません*2。エイミーは満足できる生活を得ることができた半面、失うことへの不安を感じています。恋人のジェフについても、「安全で人工的な世界」の一部、一時的な、意味のないものであると考えています。そして猿たちとの暮らしにその不安を顕在化するような出来事が起きるのです。と、この先はネタバレになるかもなので避けておきましょう。先に読後感について「何だか暖かい」と書いたのでそうひどい終わり方にはならないと思われるかもしれませんが、まあそこは未来の読者の楽しみに。

 形式的な側面についてもちょこっと書きましょう。この作品で用いられているのは三人称であり、説明的で淡々とした印象を受ける叙述はエイミーと読者の間に距離を感じさせるように思えます。しかしその文体によって綴られる多くがエイミーの内面です。物語の展開は素直に時系列に沿って、不幸な出来事、猿たちとの出会い、猿たちとのショーと生活、恋人との出会い……、という順番では書かれていません。普通の小説は読者を混乱させないよう時系列に沿った形で書かれていますが、この作品ではそうではありません。ただそれほど読みにくくは感じませんでした。また、この作品では短く区切られた24の章のその一つ一つが物語を構成する、様々な意味合いを持つ部分となっています。距離感を感じさせる文体、そして章を短く区切って小出しにし、物語内の時間感覚を大まかにとることで「猿たちとの生活」に幻想味を加えることに成功した、技巧的な短編だと感じました。

 

*1:題名から映画「12モンキーズ」や「13ゴースト」を思い出しました。話の内容とは全く関係ないですけど

*2:表面的にはそう受け取れますし、読者は癒されるかもしれませんが

藤井太洋「常夏の夜」

 今日読んだのは、第五十三回日本SF大会なつこん記念アンソロジー『夏色の想像力』の藤井太洋著「常夏の夜」です。この短編が10月にハヤカワ文庫JAで刊行される『楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選』に収録されると知り、なんとなくその前に読んでおこうと思いまして。著者の藤井太洋さん*1キンドルから電子書籍として出版された『Gene Mapper』が話題になり、その後書籍でも作家としてデビュー、最新長編『オービタル・クラウド』も面白そうです(私はまだ読んでいません)。『楽園追放 rewired』には加筆修正されたものが収録されるよう*2なので、興味のある人はどうぞ。

 

[あらすじ]

 台風の襲撃から四ヶ月、復興著しいセブ市では国際量子通信計算機学会(IQCICQ)が開催されていた。被災地のレポートをしている記者タケシ・ヤシロは、IQCICQの取材で得た友人カートが作ってくれた量子アルゴリズム「フリーズ・クランチ法」によって、執筆記事の「ゆるい参照」から抽出された文章に不可解な記述を見つける。タケシはその翌日、同じく取材中に親しくなったウォン少尉の休暇に付きあい、リゾートホテル〈サンクチュアリ〉に面するビーチでカートと合流する。カートによると量子アルゴリズムは可逆であり、タケシの気付いた不可解な記述は明日の深夜に保存されうる文章だという。さらに「フリーズ・クランチ法」はウォンの悩み、ドローンによる物資の配送ルートの問題にも適用できるという。それを聞いたウォンは、ソフトウェアの開発合宿「フリーズ・クランチ・ハッカソン」を開催する。ハッカソンでの成果はすぐさま復興支援に利用されるのだが……。

 

[感想]

 あらすじは短めに。感想も短めに。ヴァーチャル・リアリティ(VR)技術については、1980年代のサイバーパンクと呼ばれたSF小説群でその概念が広がり、その変種のAR技術については、現在に至ってスマートフォンなどの携帯端末の普及もあり、利用したことのある人も多いかもしれません。ちなみにこの小説の舞台はフィリピンのセブ市で、観光地として発展していて、インフラとしてインターネット環境もあります。

 台風などの気象災害からの復興は、最近も局地的な大雨に見舞われた日本に生きる私には身近に感じられます。ウェアラブルデバイスが民間に普及しているという設定も、AppleWatchやGoogleGlassなど、そろそろ技術的にも広く使われていきそうな雰囲気ですから現実味があります。といっても量子アルゴリズムについては、その技術的な進歩というのがどれくらいのものなのかよく分かりません。

 物語は特にびっくりするとか、そういうひねられた展開が用意されているわけではありませんが、量子アルゴリズムの視覚的表現である「クォイン・トス」というゲームの描写や、要塞の中のウォン少尉のもとにたどり着く際の「フリーズ・クランチ法」を利用している場面は、盛り上がりどころ、量子アルゴリズムのSF的見せ場とも言えます。正直言うと「クォイン・トス」がどういうゲームなのか、要塞までの最短経路を見つける場面に至るまでよく分かっていなかったのですが、難解なSFではなくきちんとエンターテイメントしているので普段SF小説を読まない人でも楽しめると思います。

 

【追記(2014年9月27日)】

 ちなみに本は「なつこん」の公式サイトから通販で入手しました。地方にいてあまりイベントごとに参加できない人間にはありがたいことこの上なしです。

 タイトルの「常夏の夜」はお話の舞台であるセブ市の気候(一年を通して温暖)を表わしながら、科学技術へのポジティブな期待感が込められています。個人的には、技術は進歩すれば進歩するほど複雑になりブラックボックス化していって手に負えなくなると思っていますが。

 あと電子書籍の作成や販売を行っているブクログのパブーというサイトに『sigma』というタイトルの、VR技術・AR技術が進歩してソーシャルネットワークにも盛んに利用され、実世界と仮想世界が半ば交わっているような世界を描いてサイバーパンクしているマンガがあったのを思い出しました。今は削除されているようですが、絵が好きだったのでいつかどこかでもう一度読んでみたいものです。