物語を狩る種族(The Story Hunters)

読んだ本の感想を書いているブログです

2015年に読んだ本

 年も明けたので去年のおさらいを。面白かったものもそれほどでもなかったものも。去年はSF小説ばっかり読んでました。

 今年は瀬名秀明デカルトの密室』とか、サミュエル・R・ディレイニー『バベル-17』とか、ロジャー・ゼラズニイ『伝道の書に捧げる薔薇』とか、チャールズ・ディケンズ二都物語とか、ジーン・ウルフ新しい太陽の書」シリーズとか、古野まほろ『天帝のはしたなき果実』とか、青崎有吾『図書館の殺人』とか、乙一ほか『メアリー・スーを殺して』とか、A.ブラックウッド『ブラックウッド傑作選』とか、クライヴ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』とか、ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーンとかを読みたいと思います。

 

まずは2015年のベスト5冊

殊能将之殊能将之 読書日記 2000-2009』

長谷敏司『あなたのための物語』

山本弘『アイの物語』

ヘルマン・ヘッセ『ヘッセの読書術』

サミュエル・R・ディレイニー『ドリフトグラス』

 どれも素晴らしい作品なので、まだ読んでいない人は一生に一度でよいので読んでいただけたら著者も出版社もついでに私も喜ぶと思います。

 

いろいろ

 ジェフ・ニコルスン『装飾庭園殺人事件』は「本格ミステリかな?」と思って読んだら罠に掛けられた一冊でした。あとは何も言うまい。

 

 積読だった日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー」もとうとう読了。長年にわたり日本SFを読んできた方には既に読んだことのある作品ばかりかもしれませんが、最近SFを読み出した私のような読者にはたまらないアンソロジーでした。中でも、石原藤夫「ハイウェイ惑星」、荒巻義雄「大いなる正午」、小松左京「ゴルディアスの結び目」、大原まり子アルザスの天使猫」、中井紀夫「見果てぬ風」、森岡浩之「夢の樹が接げたなら」、小林泰三「海を見る人」、北野勇作「かめさん」、飛浩隆「自生の夢」、瀬名秀明きみに読む物語」が特に「読めて良かった!」と感じた10作。

 

 もっと! もっと! 昔の名短篇を読めるアンソロジーを! という私の希望を叶えてくれたのが筒井康隆編の「70年代日本SFベスト集成」ちくま文庫から順調に刊行されて嬉しい限りでした。

 

 『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉』『逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成〈F〉』も、ずっと積んであったのを読み終わりました。小川一水「幸せになる箱庭」はストレートなSFで哲学的な話題を扱っており非常に好みな作品。どうでもいいことですが、Amazon電子書籍セールで小川一水の短篇集を3冊買いました。やったぜ。飛浩隆「ラギッド・ガール」も大変面白かったので「廃園の天使」シリーズの文庫2冊買いました。『空の園丁』が待ち遠しい……。ついでに言うと平山先生の『ボリビアの猿』も待ってます。乙一「陽だまりの詩」は再読、今でも大好きな作品。石黒達昌冬至草」は地味ながら力強い物語で好み。山本弘「闇が落ちる前に、もう一度」もSFならではのハッタリを利かせつつ、哲学的で馴染みやすく面白かったです。

 

 中村航中田永一『僕は小説が書けない』は小説を書く側の視点が興味深く読めましたし、えらく読みやすいのが良かったです。ただ個人的にはもっと驚きが欲しいところ。

 

 実話怪談系では、黒木あるじ『無残百物語 ておくれ』松村進吉『「超」怖い話 乙』が面白かったです。ちょっと不気味だね程度の話からマジで嫌なレベルの話まで、コントラストがあり。著者による話の伝え方のうまさもあるのかもしれません。

 

 中田永一『私は存在が空気』は恋愛成分薄めでSF(すこし・ふしぎ)な恋愛小説集。少年少女が主役なので読みやすいものの物足りず。「少年ジャンパー」が一番好き。

 

 文春文庫の『厭な物語』はすごく面白いコンセプトのアンソロジーで、どの短篇も印象に残るものでした。フラナリー・オコナー「善人はそういない」は『ニュー・ミステリ』というアンソロジーでも読んだことがあるので再読ですが、やはり素晴らしい作品。ジョー・R・ランズデールの「ナイト・オブ・ホラー・ショウ」は読んでいて平山夢明の作品に通ずる悪趣味さと理性があるように感じました。

 

 米澤穂信『満願』は総じて完成度の高い短篇集。手堅いぶんミステリ的な衝撃度は弱いとも感じましたが、いずれの短編も人間の悪意や業を描くという点で共通しており、それが物語としての強みを持っています。

 

 ケン・リュウ『紙の動物園』も安定して面白かった短篇集。選ぶのが難しいですが、「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「良い狩りを」が個人的ベストの3作です。ツイッターをやってないので販促キャンペーンには参加できず残念。

 

 ウィリアム・トレヴァー『恋と夏』は主人公の初恋のみずみずしさがほのかに明るいものの、それよりも周囲の登場人物たちの哀切が強く印象に残りました。あと雰囲気のある文章が良いものなのです。

 

 アン・レッキー『叛逆航路』は目を見張るような真新しさがあるようには思えないものの、ややこしい作品世界に、ひと癖ある登場人物たちが楽しい一冊。個人的には復讐物語であるというところもポイント高かったです。

 

最後におまけ、2015年に読んだ個人的・短篇ベスト10(順不同)

 スタニスワフ・レム「航星日記・第二十一回の旅」(『短篇ベスト10』所収) そんなにエンターテイメントしているわけではありませんが、SFの過剰さとハッタリ、知性で殴るみたいなところが良かったです。

 サミュエル・R・ディレイニー「エンパイア・スター」(『ドリフトグラス』所収) たぶん著者の力の抜け具合が良い方向に働いた傑作。とにかく楽しめました。次は『バベル-17』を読もう。

 ジャック・ヴァンス「天界の眼」(『不死鳥の剣』所収) くすりと笑えるファンタジーです。個人的事情により落ち込んでいた気分が少し前向きに。国書刊行会でヴァンスの新刊を出してくれると嬉しいのですが……。

 ジーン・ウルフフォーレセン」(『ジーン・ウルフの記念日の本』所収) 不条理で不気味な感じが大変よろしい作品です。短篇集自体も、まだ読み切っていませんが面白い。

 ケン・リュウ「良い狩りを」(『紙の動物園』所収) ボーイ・ミーツ・ガールでそこに着地しますか、というツイストが心地いい作品。どんでん返し、というよりもピタリとはまる結末が素晴らしい。

 山本弘「詩音が来た日」(『アイの物語』所収) 短篇集全体の趣向を引き締めるという点で表題作も素晴らしいけれど、短篇単体で見たらこの作品がずば抜けて好み。人間とは何かという問いに部分的ながら面白い角度で答えているのも良いし、何より誰でも歳をとりいつかは死んでいくことに対して、救いを与えようとする話でもあるので、暖かさというか、科学が人に与えられるもののポジティブな視点も良いのです。

 飛浩隆「ラギッド・ガール」(『ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉』所収) アンソロジーから。SF的な理屈付け、感傷性、印象に残るキャラクター。

 瀬名秀明きみに読む物語」(『日本SF短篇50 V:日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー』所収) こちらもアンソロジーから。人の「理解」を取り扱う繊細さと誠実さが心にくる。

 福澤徹三「まちがった」(『忌談 終』所収) 知らない怖さ・不気味さがグッド。

 ウィリアム・トレヴァー「雨上がり」(『聖母の贈り物』所収) 家族との思い出を振り返り託すような情景描写が素晴らしい。思い出の地、もともとバカンスに来る予定で無かった土地、よく知らなかった場所、いろんな要素が積み重なり、描写され、ただの風景がすごく感情豊かだと思いました。失恋直後なのでちょっと湿っぽいけど、最後はすがすがしい、まさに「雨上がり」な作品でした。