物語を狩る種族(The Story Hunters)

読んだ本の感想を書いているブログです

アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』

 2010年に早川書房クリスティー文庫で出版された新訳版『そして誰もいなくなった』(青木久恵訳)を読みました。

 有名なタイトルで、いつか読もうと思いつつも今まで読んでいなかった作品。20年以上生きていて読んでいなかったのが不思議なくらいですね。どこでネタを知ったのかもはや覚えていませんが、うっすらネタ自体は知っていたので驚きという点ではいささか物足りなさを感じました(著者に申し訳ない)。しかしそのプロットの巧みさには読者を惹きつけるものがあると思います。

 犯人が誰かなのか知らなかったし、犯人の用いたトリックも細かい部分については知らなかったので、誰が犯人なのか、推理というほど大げさなものではありませんが予想ぐらいはしながら読んでいました。集められた関係者に医者がいるので、なるほど、医者が死んだ後にまだ生きているやつを疑えばいいと単純に考えるなど。しかも『アクロイド殺し』を先に読んでいたので、心理描写の記述では犯人と被害者の区別がしにくいよう上手く書かれているのだろうと見当はつきました。まあ見当がついてもまともに考えはしなかったので犯人の予想になんら寄与してはいませんが。頭がつぶされた死体などじろじろと見たくはないだろうと思い、その死は偽装なのではないかと疑ったりしていました。そして騙されてしまいました。

 検証はしてませんが、これ、犯人を特定するのは難しいのではと感じています。しかしそのもやもや感以上に楽しめたとはっきり言えるでしょう。解説で赤川次郎が述べているとおり、一晩で読み切れる長さであるところも素晴らしいし、その盛り上げ方、どんどん人が死んでいき、人数が少なくなればなるほど加速していくサスペンス性、次はどうなると待ち構えている読者を飽きさせない展開は素晴らしいの一言。

 しかし個人的には、初めて読んだクリスティーの作品『アクロイド殺し』の驚きを超えることはありませんでした。いやほんと何も知らずに読んでびっくりしたんですよ。