物語を狩る種族(The Story Hunters)

読んだ本の感想を書いているブログです

レックス・スタウト「殺人鬼はどの子?」

 エラリイ・クイーン編『クイーンズ・コレクション1』より、レックス・スタウト「殺人鬼はどの子?」(山本やよい訳)を読みました。

 『クイーンズ・コレクション1』はEQMM(エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン)の年刊アンソロジー80年版『ELLERY QUEEN’S VEILS OF MYSTERY』の邦訳です。21の中短篇が収録されています*1

 今回読んだ作品は、アメリカの本格ミステリ黄金期に活躍した(らしい)*2レックス・スタウトの生み出した安楽椅子探偵ネロ・ウルフが登場する90ページほどの中篇です。巻末の作家紹介にあるように、「“ウルフ一家”が総登場し、謎解きのみならず、ウルフ家の雰囲気を存分に味わえる佳品」でした。

 

[あらすじ]

 探偵ネロ・ウルフの家に一人の女性が訪ねてくる。ウルフが日課となっている蘭の世話をしているので、助手のアーチー・グッドウィンは玄関へその女性を出迎えに行った。女性の名前はバーサ・アーロンといい、法律事務所の所長の秘書を務めている。彼女が言うには、ある訴訟事件に関する相手方の依頼人と、こちらの事務所の共同経営者の一人が会っているところを目撃したという。その共同経営者を問いただしてみたら様子がおかしかったので、すぐさまウルフに調査を依頼しにきたのだ。話を聞いたグッドウィンはそれがニュースになっているある離婚問題に関する事件であることに気付く。ウルフは離婚問題に関わるものは相手にしないと決めている。二階へ呼びに行ったものの、やはりウルフは依頼を断ると言った。意気消沈し、一階へ降りたグッドウィンを出迎えたのは、ウルフが机の上に置いていたネクタイ、それで首を絞められたバーサ・アーロンの死体だった……。

 

[感想]

 いやあ、ネロ・ウルフさんは安楽椅子探偵という肩書きに恥じない働きぶりでした。というわけでなかなか面白い作品でした。

 まずキャラが立っています。ネロ・ウルフはお金を持ってて探偵として名声もあり、かなり悠々自適な生活を送っており、その自由気ままさが、わがままな感じにも見えるのですが、周囲の人物、助手や使用人の態度や言動からかなり尊敬されていることが分かります。とはいえ今回のお話では、汚れたからってネクタイを机の上に放っておいてるのはどうなの、みたいなことを助手や使用人から言われていますし、そのネクタイが殺人に使用されたのですから、まあウルフの面目丸つぶれ。しかしこれがウルフによる捜査の強い動機になって、物語に張りが出ていて上手いなと感じました。

 あとグッドウィンがかなり優秀な助手に見えました。いや見えたというか、実際優秀でした。安楽椅子探偵としては、なるべく動かずに情報収集することが肝要ですが、グッドウィンの活躍には目を見張るものがあります。

 そして肝心の事件。フックが効いています。まさか探偵を呼びに行く間に依頼人が殺されるとは! 自分の家で起きた殺人にショックを受けたウルフは、警察の捜査など知るか、怒りとともに犯人を探します。探すと言ってもウルフ本人は家から出ませんが。事件現場に居合わせたウルフたちの元に、容疑者たちからやってきてくれるので手間は省けるのです。

 ウルフたちの努力の後、「名探偵、皆を集めてさてと言い」とはちょっと違うのですが、事件の関係者*3がウルフの家に集まる最後の場面は謎解きの滑らかさ、犯人の追い詰め方と見どころがありました。ウルフのささやかな復讐も決まり、名誉挽回といったところ。

 目を見張るようなトリックが使われているわけではありませんが、癖のある登場人物たちが動き回るミステリーは読んでいて面白かったです。

 

*1:ちなみに目次では20の作品しかないように見えますが、その内の一つは連作短篇で、実質21の作品が収録されています

*2:「らしい」というのは私自身がレックス・スタウトの作品を読んだことがなく、よく知らないので……

*3:ただし警察は除く。犯人に復讐したいので、ウルフは犯人が分かっていても警察にはまず知らせません