物語を狩る種族(The Story Hunters)

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高橋克彦「緋い記憶」

 今日はミステリー文学資料館編『ホラーミステリー傑作選 ふるえて眠れない』の高橋克彦著「緋い記憶」を再読しました。この短編集はそのタイトルどおりホラーの傑作ばかりで、いやもう本当に面白いアンソロジーとなっています。筒井康隆半村良宮部みゆきから平山夢明まで、知ってる作家知らない作家どの作品もひどく楽しめます。高橋克彦さんの第一作品集『緋い記憶』は第百六回直木賞を受賞したということで、読んでいる人も多いかもしれません。

 

[あらすじ]

 有名デザイナーである山野は、幹事である加藤から四十二の厄落としと一緒に合同開催される高校のクラス会に誘われる。加藤と会った際に、相手が持ってきた昔の盛岡の住宅地図を見て、山野に懐かしい記憶がよみがえる。しかしその住宅地図には、記憶の中にある家が載っていなかった。強い違和感を覚えた山野は、出るつもりのなかったクラス会に出席し、忌まわしい記憶とともに封じ込まれていたある家について調べ始める……。

 

[感想]

 ノスタルジーと恐怖を強く喚起させるお話で、その切ないような気持ち悪いような印象が良く、きっちりホラーらしく締めてくれるラストも好みです。主人公の思い出も思春期のリビドーが発露された感じで良い雰囲気です。

 主人公が自らの記憶について考えているとき、現実の描写と記憶の描写がすっと切り替わっているように書かれていて、そこは少し戸惑いましたが、上手い書き方だと思いました。主人公は有名になったものの、作中で「お金のため」と書かれているように現在の仕事には満足していないようで、最後は過去の記憶の中に幸せを見つけたようですが、なんとも悲しい幕切れです。全体として哀愁を感じさせる話でした。もちろんホラーらしい気持ちわるさもありますが。