物語を狩る種族(The Story Hunters)

読んだ本の感想を書いているブログです

SFマガジン2014年12月号(R・A・ラファティ生誕100年記念特集)

 ラファティ特集が読みどころのSFマガジン2014年12月号を読みました。

 ラファティ読んだことないんですけど、私の頭の中の「読んだことない作家ワールド」で妙な存在感があったので今回の特集に飛びつきました。Amazonで即予約です。SFマガジンの700号記念のとかディック特集のとか、気が向いたら買おうと思っていたら、時すでに遅し、売り切れていたので……。

 というわけで(?)まずは牧眞司*1「特集解説」から。”そう、ぼくらは秘密結社だ”という宣言から始まり、ラファティという作家、特集の小説・エッセイ・評論などを手際よく紹介してくれます。「秘密結社だ」という宣言からはまったく秘密にしている感がありませんが、ラファティの人気さ(おそらくSFマガジンを手にとる人以外にはよく知られていない)が伝わってきます。新入りにもやさしい特集を組んでくれた牧さんとSFマガジンに感謝。

 次は「その曲しか吹けない――あるいは、えーと欠けてる要素っていったい全体何だったわけ?」(山形浩生*2訳)を読みました。「聖ポリアンダー祭前夜」はまあ、なんとなく後回しに。冒頭から、”トム・ハーフシャルはラッパ演奏が主専攻で、郷愁民間伝承が副専攻”、それに怪獣変身やハード地理学などの科目。このお話の世界は君たちの知っている世界とは外れているよ、ということを教えてくれて、読んでいるほうもわくわくしてきます。そして文体も「ある種」の物語の雰囲気を漂わせていて素敵です。「語り」は奇妙にひねくれている感じがしますが、お話のキモの部分については最後に直接的な単語が出ますしわかりやすいと思います。ある物語について何を以てわかったと言えるのかはわかりませんが。

 それから浅倉久志*3ラファティ・ラブ」(古沢嘉通*4訳)。翻訳で浅倉さんの文章が読めるとは! 浅倉さんのラファティ作品との出会いから、その魅力が伝わります。

 続く「R・A・ラファティ インタビュウ」(橋本輝幸*5訳)は作品がどのようにつくられているのか、わかるようなわからないようなものとなっています。山形浩生アーキペラゴ航海記」を読むと、このインタビューの中で触れられている『Archipelago』がどんな話かさらにわかります。山形さんでも”まともに理解できない"というほどの作品なので、翻訳(柳下毅一郎*6さんに頼みたいところですね)が売れるかわかりませんが、一度は読んでみたい。

  マイクル・スワンウィック「絶望とダック・レディ」(牧眞司訳)では、ラファティの作品が出版されているころ、それがどのように評価されていたかが分かります。編集者の間でも一定の評価は与えられていたようですが、読者が少ないと目されていたと。そんな中で小さな出版社が動くというのはすごいですね。あと、"ラファティについて書くとき、つい彼のようにやってみたくなる"と書いているマイクル・スワンウィック。"戦うまえに決着がついている"とわかっていながら、"なんのことやらさっぱりわからない"で締めるとは。

 井上央「ラファティ書簡1979-1993」については、こうした個人的な交流の一端を公開してくれた井上さんに感謝ですね。チェスタトンを高く評価しているとか、作品についての作者自身の考えを知ることができるのは楽しい。

 大野万紀*7岡本俊弥*8/中藤龍一郎/林哲矢「ラファティ邦訳長篇レビュウ」に始まる、一連の作品紹介(井上央「知られざるラファティの長篇世界 未訳長篇総まくり」、坂永雄一*9「行間からはみだすものを読む 邦訳全短篇紹介」、松崎健司*10ラファティ未訳オススメ短篇20選」)は初心者だけでなく熱心な読者も視野に入れた素晴らしいものです。邦訳全短篇紹介では、100はある作品をガジェットから分類していて、ラファティの短篇作品のよきガイドとなりそうです。未訳オススメ短篇を紹介した松崎さんの「新世紀ラファティ結社」は、海外のSF事情(いや、ラファティ事情?)が窺えて面白い。

 柳下毅一郎「ホントは怖いラファティ」、牧眞司ラファティの終末観」、山本雅浩「ラファティのモノカタリ」ではラファティ読みのツワモノたちが、その作品のユーモア、宗教的要素や難解さに潜むものについて語ってくれます。ラファティ作品の森に分け入るのは楽しそうですが、底が知れなくて少し尻ごみしてしまいそうです。

 若島正*11「乱視読者の小説千一夜 出張版」では、山形さんの「アーキペラゴ航海記」にもありましたが、昔の海外SF読者の苦労について触れられていて、今は何と恵まれていることか! と思いました。大体の洋書(英語)はAmazonで入手できますし、最新SFもLightspeed MagazineやTor.comやSubterranean Pressなんかで公開されていますからね。おお、インターネットの力よ。

 「カブリート」(松崎健司訳)はある店で出されるカブリート(子ヤギの串焼き)についての話。お話は酒場から始まるのですが、その酒場の壁が鏡張りになっていて、店を出るノルウェー人に二体の鏡像がくっ付いてくという奇妙な出だし。この鏡像、おわかりになるかどうかわかりませんが、生霊なんですよ。まあ生霊であろうと鏡像であろうと、主人公によく似た存在なのは変わりありません。で、仲間のアイルランド人(と生霊二体)と入った店で、カブリートを食いながら、カブリートの話を聞くわけです。食べている時にその食べ物の話を聞かされるというシチュエーションは、悪い予感しかしませんね。結末は、実際に読んでみてください。語りも美味しい短篇ですよ。

 ラファティによるエッセイ「SFのかたち」(大森望*12訳)はラファティ流のSF小説論のようです。ようです、というのはもしかしたら「SFとはなんぞや?」以上のことについてラファティは語っているのかもしれないからです。ええ。

 特集のうち最後まで読むのをとっておいた「聖ポリアンダー前夜祭」(柳下毅一郎訳)はシリーズものということですが、これは、シリーズ作品を読んでいたら何かわかりやすくなるんでしょうか? 芸術秘書の仕事って? 陶器の小人とは一体何でしょうか? 演じられていた劇の意味は? 一つわかるのは観客・演者を巻き込むドンチャン騒ぎが起きて、収まって(あるいは収まらないで)、アウストロは関係なかったということです。

 さて、もうラファティ特集だけでお腹いっぱい! という感じですが、それ以外についても少々書きましょう。『楽園追放』がもうすぐ公開ということで、虚淵さんの特別メッセージが載っています。映画をきっかけにサイバーパンクを、ということで「サイバーパンクSF傑作選」も出ています。欲しいけれど、予算が……。11月には『化石少女』、12月には『70年代日本SFベスト集成2』があるもので。あとは、SFブックスコープの『恋愛小説集 日本作家編』や『世にも不思議な物語』、『八面体』が気になるところ。お金に余裕ないので心のメモ帳にしまうしかないんですけどね。田辺青蛙「北米に羽ばたく日本SF」では、海外のSFコン楽しそう、というのと菊池秀行が売れているというを初めて知りました。村上春樹の次に売れているとな。

 普段SFマガジンを読んでいないので、残りはゆっくり読もうかと思います。

 

*1:牧眞司(shinji maki) (@ShindyMonkey) | Twitter

最近話題の『サンリオSF文庫総解説』編者の一人でもあります。WEB本の雑誌の「今週はこれを読め! SF編」牧眞司|WEB本の雑誌も面白いですよ

*2:Hiroo Yamagata (@hiyori13) | Twitter

訳書に面白いものが多いです(私が読んだ範囲では)。あと日本語版ページ(YAMAGATA Hiroo: The Official J-Page)やはてなダイアリー山形浩生 の「経済のトリセツ」)にも面白い記事が沢山あります

*3:SFに貢献した偉大な翻訳者。読者として、知っているところ知らないところでかなりお世話になっていそうです

*4:マイクル・コナリークリストファー・プリーストの翻訳者である古沢さんのツイッターY. Furusawa 古沢嘉通 (@frswy) | Twitterはサッカー・落語の合間にあるSFの話題が興味深いので時々チェックしています

*5:訳者ツイッターTeruyuki Hashimoto (@biotit) | Twitterは海外SF情報が得られるのでありがたいです

*6:ジーン・ウルフケルベロス第五の首』の翻訳者Kiichiro Yanashita (@kiichiro) | Twitter

*7:大野万紀 (@makioono) | Twitter

THATTA ONLINE執筆者の一人

*8:岡本 俊弥 (@toshiya_ok) | Twitter

THATTA ONLINE執筆者の一人。ホームページの岡本家記録Book Review Online Start Pageには沢山のSFレビューがあります

*9:坂永雄一 (@SeleniumGhosts) | Twitter

計画中というラファティ同人誌に期待。ネット通販してくれると良いのですけれど

*10:らっぱ亭 (@RappaTei) | Twitter

ホームページ「とりあえず、ラファティ」(http://hc2.seikyou.ne.jp/home/DrBr/)も充実してます

*11:Problem Paradise (@propara) | Twitter

著書の『乱視読者のSF講義』が素晴らしいのでみなさん読むと幸せになれるかもしれません

*12:大森望 (@nzm) | Twitter

SFアンソロジストコニー・ウィリス翻訳者というのが最近のイメージ。AXNミステリーBOOK倶楽部は楽しかったな……。闘うベストテンとか。訳書はコニー・ウィリス『航路』とジョン・クロウリー『エンジン・サマー』がオススメです