物語を狩る種族(The Story Hunters)

読んだ本の感想を書いているブログです

チェスタトン「奇妙な足音」

 国書刊行会刊、G・K・チェスタトンアポロンの眼』から、「奇妙な足音」を読みました。

 物語は

もしもあなたが、あのエリートのクラブ「十二人の本物の漁師」の会員が年に一度のクラブの夕食会に出席しようとヴァーノン・ホテルに入って来るのに出会ったとしたなら、彼が外套を脱ぐときに気づかれるだろうが、彼の夜会服は緑色であって、黒色ではないのである。

という文章で始まりますが、このしょっぱなから読者に手掛かりを与えており、推理小説として非常にフェアな短編です。

 

[あらすじ]

 エリートクラブ「十二人の本物の漁師」は年に一度、ヴァーノン・ホテルで夕食会を催している。ヴァーノン・ホテルは人目につかぬ贅沢な場所であった。クラブの会員はそこでありとあらゆる宝物を陳列する習わしであり、展示品を眺めながら夕食を共にしていた。

 その夕食会が催されたある日、給仕の一人が発作で倒れ、ブラウン神父がヴァーノン・ホテルに呼ばれる。給仕は死の間際ブラウン神父に懺悔をし、それを聞いたブラウン神父は何事かを紙に書きつける。書きものの最中、ブラウン神父は奇妙な足音を聞きつける。素早く小刻みな足音が長く続いたかと思えば、止まり、ゆっくりと身体を左右に動かして重く響くような足音に変わり、そしてまた小刻みになる。廊下から聞こえてくる足音に頭を悩ませながら自らの仕事を終えた神父は、今度はその足音が今までよりもさらに素早く駆け抜けるものへと変わり、かと思えばまた非常にゆっくりとしたものになったのに気付く。

 神父は隣のクロークに近づきつつある足音の先回りをし、その足音の主の相手を係の者に代わって務める。帽子とコートを受け取った紳士がチップとして金貨を渡したとき、神父に霊感が訪れる。そして、「ポケットに銀貨をおもちのはずですが」とブラウン神父は尋ねる……。

 

[感想]

 全体的に地味な感じのお話でした。前半は特に目を引く出来事が起きないので読んでいて眠気が……。ただ、ブラウン神父が真相を語る場面ではびっくりしました。奇妙な足音が意味するものには全く見当もつかなかったので。色々伏線というか、読者への手掛かりが前半に複数示されているので、何らかの犯罪が行われているということに気付いていればあるいは終盤までに真相が分かったかもしれませんが、読んでいる最中は一体何が起こっているのかさっぱりでした。

 心理的盲点を突いた犯人のトリック、そしてその犯人の思考をトレースするようなブラウン神父の推理には脱帽です。物語の最後、ブラウン神父とパウンド大佐の会話は皮肉とユーモアに富んでいて、幕切れに鮮やかな印象を残しています。